Prologue 5/7


どうでもいいことは置いといて…

七は何者になるのか?

七 「…私、偉くなるのかな?」
永世「偉そうだった?」
七 「いや、普通の感じだったよ。今、家にある服着てたし」
中 「裕福ではないと」
七 「こら。今もってる洋服の中では一番上等なやつ」
中 「…裕福ではないと」
七 「…間違ってはないと」

またも落ち込む2人。

永世「だから、見てみれば?」
七 「え?」
永世「ファイルの中身」
七 「だから、恐いって」
永世「恐くても。見ないと何にも解らないでしょうが!」
七 「そうだけど… それ誰のマネ?」
永世「誰のマネでもいいでしょうが!」
中 「…そうだね」

急に真顔になる中。

七 「は?」
中 「うん。見てみようよ!」
七 「いやだ!」
永世「でた。七イズム」
七 「違う。これは子供の頃からの… クセ。ほぼ条件反射」
中 「ちーなーみーに」
永世「ん?」

中、永世に耳打ち。
しかし、声がでかい。

中 「永世のお姉ちゃんはなんでこういうことになっちゃったの?」
永世「知らないよ」
中 「ものすごく天邪鬼だよ」
永世「中はえらいなって思っているよ」
中 「こういう機会だから聞いてみるけど。お姉ちゃんは、幼少期に何か大きな出来事があったのかな? トラウマ的な…」
七 「だだ漏れ! 私の過去はどうだっていいでしょ」
中 「とにかく、見てみよう!」
七「いやだ! 違う。クセ」
中「ちーなーみーに」
永世「ちなむな。ってか、いつもどうしてるんだよ?」
中「耐える」
永世「…うん。じゃ、いつも通りで」
中「了解」

中は拳を握り、
膝の上に置く。

ガマンの姿勢。

永世「姉ちゃん。見ないと何にも進まないだろ?」
中 「もしかしたら、ドッキリって看板持ってるかもしれないよ?」
永世「3年後の姉ちゃんが? 暇だね」
中 「本当に。…本当に、七に伝えたい事があるかもしれないし」
七 「…そうだね」

七は自分の頬を叩く。

中 「七?」
七 「…解った」
永世「姉ちゃん」
七 「私、見てみる」

3人の視線が CD-R に集まる。

七 「永世」
中 「永世」
永世「…は?」

なぜ自分が呼ばれているのか、
皆目見当がつかない永世。

永世「…え? 何?」
七 「何じゃなくて」
中 「ファイルを見ようって言ってるんだよ」
永世「そうだね」

2人は永世を見ている。

永世「…え? ごめん。解んない」
七 「パソコンでしょうが!」
中 「パソコンないと見れないでしょうが!」
永世「ダブル… いや、持ってないけど」
七 「…え?」
中 「…え?」
永世「持ってないけど」

永世、両手を広げて『ない』のポーズ。

中 「えー」
七 「えー。それなのに、見てみたらとか言ってたの?」
永世「別にパソコン持ってるとか言ってないでしょ」
中 「マニアックな話ばっかりしてるから、てっきり」
永世「人をおたく扱いしないでくれる。今どき、携帯あれば何でも出来るし」
七 「携帯に CD は入れられないでしょうが!」
永世「それ、気にいったの?」
中 「うう、ああ、おお …でしょうが!」
永世「言いたいだけかい」

3人、腕組み。
考えてみる。

中 「…どうしようか?」
永世「どうしようかね?」
七 「家に帰って見る」
中 「そうだね」
永世「ま、それしかないね」
中 「そうしよう」
七 「いや… そうしよう」
永世「お、イズム飲み込んだ」
中 「よし、そうと決まったら注文しようか」

勢いよくメニューを開く中。

中 「まだ得盛りセットしか頼んでないしね」

間。

七 「…え?」
永世「…え?」
中 「…え?」
七 「ご飯食べるの?」
中 「…だめかな」
永世「こんな謎を抱えたまま、ご飯食べるの?」
中 「せっかく来たし」
永世「おいおい」
中 「今日は、七の、退職の、お祝いでしょうが!」
永世「気に入ってんな」
七 「退職のお祝い?」
永世「…おかしいおかしい」

間。

中 「…今日は、七の、お疲れさま会でしょうが!」
永世「編集点つくるな」
中 「だから、初めて個室頼んだんじゃないの? ちょっと豪勢にしようかって。なんか、流れでいつもの得盛りセット頼んじゃったけど。ほら、頼んじゃってるし。肉くるよ。頼んじゃったから」
永世「いやいや。一刻も早く見るべきなんじゃないの、3年後の姉ちゃんからのメッセージだよ」
七 「そうね」
永世「そうだよ」
七 「メニュー見せて」
中 「はいはい」

中、七にメニューを渡す。

永世「えー」
七 「せっかく来たし」
永世「えー」
中 「それにさ、急な話だったら、ここには持ってこないでしょ」
永世「どういうこと?」
中 「向こうは、1回この状況を経験済みだよね。未来から来たんだから。だったら、七がパソコン持ってるときに現ればいいのに、何で今現れるわけ? 職場に現れれば、すぐに見れるって解ってるはずでしょ? なのに、ここを選んだってことは急な話って訳じゃないってことでしょ。とりあえず、ご飯食べる余裕くらいある気がする」

中がまともなことを言っている。

永世「…なるほど」
七 「なるほど」
永世「姉ちゃん?」
七 「そんなに深く考えてなかった」
永世「考えよう。姉ちゃんの事だから」
七 「でもね。中の言うとおり。まあ、パソコン持ってないところに現れるって。そんなところは私っぽいんだけどね。…まず、私の性格を解ってない感じなのよね」
中 「どういう意味?」
七 「中を見なさい。そして、未来を変えなさい」
永世「3年後の姉ちゃんが言ったんだろ?」
七 「どう考えたって… 見ないのよね」
永世「は?」
七 「私はね。『見ろ』なんて命令されたら、お断りって言う女じゃない。もう言ったけど。それくらい、私なら解るはずなのよ」
中 「確かにね」
永世「七イズム」
七 「私は。…天邪鬼なのよ」
永世「知ってるよ。超がつくけどね」
中 「超だね」
七 「だから、何か。…見てやるもんかって気が、どっかんどっかん沸いてきてるのよね。別府か? てくらい。どっかんどっかん」
永世「え? わざわざ、タイムマシンにのって、姉ちゃんに何かを伝えにきた姉ちゃんの思いは?」
七 「私なら、もっと私が見るようにしむけると思うのよ。…やっぱり、幻だったのかな?」
永世「CD あるから」
七 「下手なのよ。私のくせに。私の扱いが」
永世「扱いって」
中 「なるほどね」
永世「いいのかな?」
七 「もしも、すごく知っとけばよかった思うことが入っていたとする。タイムマシンに乗ってる時点で、たぶん、そういうことなんだろうって思うけど。・・・永世、3年前の今頃って何してた?」
永世「俺? …3年前? …あ。バイトしてた。彼女にプレゼント買おうと思って、2個掛け持ちして」
中 「永世、彼女いたんだ?」
永世「3年前はね。クリスマス前に振られた」
中 「オカルトおたくだから?」
永世「違うわい」
七 「左足がくさいから?」
永世「違うわい」
中 「えっと、えっと」
永世「探すなよ。院の論文の時期と重なって、全く会えなくなったんだよ」
中 「イン?」
七 「ズーム?」
永世「大学院! 知ってるよね」
七 「ユーモアが解らない男だね」
中 「人生を楽しめ」
永世「うるさい!」
七 「でもさ、それから、いろいろあったでしょ。そんなこと忘れるくらい」
永世「…まあ。いろいろあったね」
七 「3年っていろいろあるのよ。いろいろあるくらいの年月なのよ」
中 「永世と初めて会ったのは一昨年の冬か」
永世「ん? そうだね」
中 「まだ2年くらいだけど。こんな風に一緒に話してる。3年前は、まだ2人は知らない人間同士だったのに。今では友達以上・・・兄弟未満って感じ?」
永世「聞くなよ。気持ち悪い」
七 「仕事辞めるとき、勇気出したの。将来のこととか、いろんなこと考えると不安だったけど。私は、後悔しないように決断しようって。これからもそう生きられるようにしようって。だから、仕事やめた」
永世「うん」
七 「心配かけたと思うけど」
永世「まあ、中もいるし」
中 「何とかなるでしょ」
七 「・・・だから。これは見ない。はい。お断りよ!」
永世「何でそうなる?」
七 「お断りよ!」

七がそう叫ぶたび、
蛮画廊の店主はびくついている。

やっと、肉をまっすぐ切れる程には落ち着いてきたが…
落ち着けば落ち着くほど…

なんだか怖くなってきている。

店 「…何事か?」


物語は始まらない。
これはまだプロローグ。


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